金子隆夫さんの詩集をオックスフォードで届けたい

いつもARD(アートオブザラフダイヤモンズ)の活動を応援してくださり、ありがとうございます。アートディレクターの若尾尚美です。

今月も、私たちNPOアートオブザラフダイヤモンズの活動についてお話しします。今回のテーマは、2026年(今年)11月に予定している、金子隆夫さんの詩集出版プロジェクトです。金子さんは、第2回のエッセイでもご紹介したアーティストです。

(画像引用:工房集様インスタグラムより)

イギリス・オックスフォードで

今年、ARDはGreat Britain Sasakawa Foundation(グレートブリテン・ササカワ財団)の助成を受け、金子さんの詩集を出版する準備を進めています。さらに、オックスフォード大学の日本文学研究者であるローレンス・マン先生のご協力を得て、オックスフォード大学や街の書店Curio Books + Cultureで、出版イベント(朗読やトークイベント)を開催する予定です。

(画像引用:VELTRA webサイトより)

私たちはこれまで、障害のあるアーティストの作品がきちんと社会やアートマーケットで評価され、その価値が本人や施設へ還元されることを大切に考えて活動してきました。作品が正当に評価されることは、生活や制作環境の向上につながり、社会の中での地位を高めることにもつながるからです。

ただ、その一方で、私たちの中にはずっと問いもありました。障害のある表現者たちの作品を、資本主義の仕組みの中で価値づけていくことだけが、本当に目指すべきことなのだろうか、という問いです。

もちろん、私たちは資本主義を否定しているわけではありません。けれど、経済的な価値だけでは測れないものもあるのではないか。経済に偏ってしまい見落としてしまう大切なものがあるのではないか。そう感じるようになりました。

そこで私たちが大事にしたいと思ったのが、

アカデミアや地域コミュニティとのつながりです。作品を「売る」「買う」だけで終わらせるのではなく、その作品に触れながら、障害とは何か、創造性とは何か、能力とは何か、人間とは何かを、みんなで考えていく。そんな場をつくりたいと考えました。

障害のある人たちの表現には、私たちが見失いがちなものに気づかせてくれる力があります。作品そのものだけでなく、それを取り巻く環境や人間関係にも、社会への大切な問いや示唆が含まれていると、私たちは感じています。ARDは近年、そうした問いを社会に手渡していくNPOでありたいと考えるようになりました。

(画像引用:Curio Books + Culture HPより)

皆さんもよくご存じの「ヘラルボニー」さんは、障害のある人のアートをビジネスとして成立させたすばらしいビジネスモデルを示してくれています。その実践には、心から敬意を抱いています。そうした先行例があるからこそ、私たちらしいアプローチは何かを模索しながら、彼らの作品や創造性と向き合っていきたいと思いました。経済的側面だけではなく、哲学的に捉えることにも、大切な意味があるのではないかと思ったのです。

今の社会は、AI、戦争、格差、環境問題など、先の見えにくい課題を多く抱えています。こういう時代だからこそ、すぐに役に立つことだけではなく、「人間とは何か」「どう生きるのか」を考える時間が必要なのではないか。私はそう感じています。

そうした中で、私が強く共感しているのが、

京都大学の出口康夫先生が提案されている「Self as We」という「WEターン」の考え方です。人は一人だけで生きているのではなく、周りの人や物に支えられている。だからこそ、自分にとっての利益だけでなく、「私たち」にとって何がよいのかを考えることが大切だ、という考え方です。

もちろん、これが唯一の正解ではありません。けれど、資本主義の価値観だけでは、何か大切なものが抜け落ちてしまう。その感覚に、私は深く共感しています。だからこそARDも、今は少し立ち止まりながら、活動のあり方を見つめ直しています。

そして、そのひとつとして進めているのが、今回のオックスフォードでの詩集プロジェクトです。

(画像引用:工房集様HP「金子隆夫 生きるための名言集より」)

知的障害のある詩人・金子隆夫さんの言葉に出会ったとき、私は「人がいかに生きるか」を静かに問い続ける世界がそこにあると感じました。ぜひ多くの方に、その世界に触れていただきたいと思っています。

金子さんは、知的障害があり、自閉症でもあるため、多くを語る方ではありません。しかし長年にわたって日記を書き続け、日々の出来事や人間観察を通して、ご自身ならではの短い言葉や詩、俳句を生み出してきました。

金子さんの言葉には、

率直さ、ユーモア、そして人や世界へのあたたかなまなざしがあります。読む人の心をふっと軽くし、そっと力を渡してくれるような魅力があります。

今回のプロジェクトでは、金子さんの俳句や詩を英訳し、小さな詩集としてまとめ、オックスフォード(イギリス)で紹介する予定です。オックスフォードでは、大学関係者や書店と連携して、朗読や対話の場も設け、日本の俳句文化と英国の詩文化、そして障害のある表現者の言葉をつなぐ試みを進めます。

ただ、私たちが本当に大切にしたいのは、単に海外で発表することではありません。金子隆夫さんという一人の人間の、ことばと生き方を、きちんと一冊の本として残すこと。それが、この企画のいちばん大事な核です。

知的障害があるからこそ見えている世界。日々のささやかな喜びや痛み。社会との独特な距離感。そうしたものが、短い詩や俳句のかたちで結晶化している。その世界を、日本語と英語の両方で丁寧に届けたいと考えています。

そこには、
「人はどのような環境にあっても、言葉を通じて自らの人生を深めることができる」
「社会の周縁に置かれがちな人の言葉こそ、ときに本質を照らす」
というメッセージがあるのではないかと思っています。

現在、私たちは助成金と小口の寄付を組み合わせながら、詩集制作費と、オックスフォードでのイベント開催費を賄おうとしていますが、まだ十分とは言えません。

もしこのプロジェクトの趣旨に共感していただけるようでしたら、少額でも、ご寄付やご協賛というかたちでお力添えをいただけましたら、大変ありがたく思います。

人の「生きる」を深く見つめること。日々を生きるなかで言葉を紡ぎ続けてきた金子隆夫さんの詩の世界を、少しでも多くの方に届けられたらと願っています。

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