いつもARD(アートオブザラフダイヤモンズ)の活動を温かく応援してくださり、ありがとうございます。アートディレクターの若尾尚美です。
今月は「推しアーティスト」のご紹介ではなく、私たちNPOアートオブザラフダイヤモンズの活動についてお話しさせてください。テーマは、2025年10月に開催したアート展です。

(HAMA HOUSE展覧会ポスター)
私たちの活動は、2018年に始まりました。きっかけは、有志が集まり、「才能は、芸術大学出身かどうかや、健常者か障害者かに関わらず、平等に評価されるべきではないか」という、ある意味で青臭い正義感でした。青臭いと言っても、集まったのは皆すでに十分大人でしたが(笑)。
初めての展覧会は、渋谷にあった私の小さなアートギャラリーで開催しました。その後、国際的な仕事に携わる友人たちと活動していたこともあり、「日本だけでなく海外での認知も目指そう」という話になり、2019年にはワシントンD.C.の日本大使館広報文化センター(JICC)や米州開発銀行(IDB)で海外展を開催しました。
(ワシントンD.C.、JICC、IDB展覧会ポスターとパンフレット)
しかしその直後、コロナ禍となり、海外での活動は難しくなりました。そこで私たちは活動の軸足を日本国内に戻し、バーチャル展覧会や小規模な展示を、さまざまな団体・企業と協働しながら継続してきました。
特に東京愛宕ロータリークラブの皆さまには、奉仕活動と連携する形で展覧会を開催させていただいています。皆さまのネットワークとプレゼンスのおかげで、東京のロータリアンの方々や素晴らしい施設に支えられ、華やかな展示やレセプションを実現することができました。毎回大きな反響をいただき、作品販売による収益をアーティストや所属施設へ還元できていることに、心より感謝しております。
ただ今回は、そうした華やかな展示ではなく、街の人々に愛されているカフェで行った展示についてお話ししたいと思います。ギャラリーや美術館のホワイトキューブで、知人を中心に招いて開催する展覧会とは異なる、温かな体験でした。
その会場となったのが、日本橋浜町にある「HAMA HOUSE」です。オーナーが選んだ本が並ぶブックカフェであり、LPレコードの音楽が流れ、夕方にはアルコールも提供されています。手づくりのスイーツや食事、テイクアウトのお弁当もあり、近隣に住む方や働く方にとって、癒やしと憩いの場となっています。犬連れでも利用でき、かわいらしい犬たちに出会えたり、小さな子どもたちが動物との触れ合いを身近に感じられたりする、温かな空間です。
本と白い壁に囲まれたその場所は、それだけでも十分魅力的ですが、私は以前から「ここにアートがあれば、さらに豊かな空間になるのではないか」と感じていました。そんな折、日本橋浜町の都市開発を担う安田不動産の方をご紹介いただき、HAMA HOUSEのオーナーへとつながり、白い壁面の空きスペースを活用した障害のある方のアート展が実現しました。
ロータリークラブの展示とはまた異なる、地域に根ざした、ハートウォーミングな展覧会となりました。
(HAMA HOUSE展示風景)
私はこの場所と「障害のある方のアート」というジャンルは、とても相性が良いと感じました。街のコミュニティに親しまれているカフェだからこそ届くものが、確かにあったのです。
来場者の多くは、普段あまりアートに親しみのない方々でした。
「ギャラリーは少し敷居が高い」
「アートはよく分からない」
「現代アートは難しそう」
そんな感覚を持つ方も少なくありません。
けれど、いつものようにカフェを訪れたとき、そこに素敵な作品が飾られていたらどうでしょうか。
「力強くて面白いですね」
「楽しい作品ですね」
「これは誰が描いたのですか?」
「障害のある方の作品なんですね」
「以前、区役所で見たことがあります」
こうした自然な反応が生まれます。
さらに、
「販売しているのですか?」
「購入できますか?」
「気に入ったので買いました」
「迷ったけれど、2点購入しました」
といった嬉しい声もありました。
私たちは作品を安価に販売しているわけではありません。アーティスト本人や所属施設と話し合いながら、一つの作品として、またアーティストの仕事として、適正な価格でご提供しています。額装も施しているため、決して気軽に買えるものではありません。
それでも購入してくださる方がいる。そのことに、大きな意味を感じました。
ホワイトキューブで見られる、アートコレクターや専門家、あるいはソーシャライトの方々の反応とは明らかに異なります。そこでは美術的価値や資産性、展覧会歴や受賞歴といった話題が前面に出ることは多くありません。その代わりに感じたのは、「自分も社会に何か貢献できた気がする」という、静かな手応えでした。
もちろん、どちらが良いという話ではありません。ただ、「こうした展覧会のあり方もある」と、私自身が強く実感したのです。
これまで作品を購入してくださる方の多くは、私たちの知人やその紹介といった、人間関係の延長線上にいる方々でした。しかしHAMA HOUSEでは、この場で初めて出会った方が、NPOやロータリーと直接関わりのない方が、「カフェで作品に出会い、気に入って購入する」ということが起こりました。
また、カフェのInstagramを見て「気になったので来ました」と足を運んでくださる方もいらっしゃいました。
そこには強い使命感や大きな社会貢献意識があるわけではないかもしれません。それでもこの体験を通じて、「少し社会の役に立てた気がする」と感じる――そんな、やわらかな関わり方が生まれていました。
私自身も、この展示をキュレーションする中で、やわらかな喜びを感じていました。この感覚の背景にあるのは、「街のコミュニティ」「地域のつながり」という存在だと思います。
コミュニティが生み出す力。
人を支える力。
優しさや温かさ。
それらが、豊かな社会や人間関係を支えていることを、あらためて実感する展示となりました。
学術的に言えば、「アートがコミュニティに与える影響」や「まちづくり」というテーマに位置づけられるかもしれません。しかし私にとっては、それ以上に、人の優しさや尊厳について考えさせられる体験でした。
(HAMA HOUSEレセプションの様子)
HAMA HOUSEは、東京都中央区日本橋浜町にある、魅力的な街のカフェです。常設でアート展示が行われているわけではありませんが、お近くにお越しの際は、ぜひ立ち寄ってみてください。
人のあたたかさを感じられる空間で、知的好奇心を刺激されながら、ゆったりとした時間を過ごすことができます。
お腹も、頭も、そして心も満たされる場所です。

(Hama House外観)
HAMA HOUSE NEW2022B
https://www.instagram.com/cafe_hamahouse/?hl=ja
Last Updated: 2026年4月23日 by hide
展示の場所がもたらすもの ― 地域コミュニティとHAMA HOUSEの展示
いつもARD(アートオブザラフダイヤモンズ)の活動を温かく応援してくださり、ありがとうございます。アートディレクターの若尾尚美です。
今月は「推しアーティスト」のご紹介ではなく、私たちNPOアートオブザラフダイヤモンズの活動についてお話しさせてください。テーマは、2025年10月に開催したアート展です。
(HAMA HOUSE展覧会ポスター)
私たちの活動は、2018年に始まりました。きっかけは、有志が集まり、「才能は、芸術大学出身かどうかや、健常者か障害者かに関わらず、平等に評価されるべきではないか」という、ある意味で青臭い正義感でした。青臭いと言っても、集まったのは皆すでに十分大人でしたが(笑)。
初めての展覧会は、渋谷にあった私の小さなアートギャラリーで開催しました。その後、国際的な仕事に携わる友人たちと活動していたこともあり、「日本だけでなく海外での認知も目指そう」という話になり、2019年にはワシントンD.C.の日本大使館広報文化センター(JICC)や米州開発銀行(IDB)で海外展を開催しました。
(ワシントンD.C.、JICC、IDB展覧会ポスターとパンフレット)
しかしその直後、コロナ禍となり、海外での活動は難しくなりました。そこで私たちは活動の軸足を日本国内に戻し、バーチャル展覧会や小規模な展示を、さまざまな団体・企業と協働しながら継続してきました。
特に東京愛宕ロータリークラブの皆さまには、奉仕活動と連携する形で展覧会を開催させていただいています。皆さまのネットワークとプレゼンスのおかげで、東京のロータリアンの方々や素晴らしい施設に支えられ、華やかな展示やレセプションを実現することができました。毎回大きな反響をいただき、作品販売による収益をアーティストや所属施設へ還元できていることに、心より感謝しております。
ただ今回は、そうした華やかな展示ではなく、街の人々に愛されているカフェで行った展示についてお話ししたいと思います。ギャラリーや美術館のホワイトキューブで、知人を中心に招いて開催する展覧会とは異なる、温かな体験でした。
その会場となったのが、日本橋浜町にある「HAMA HOUSE」です。オーナーが選んだ本が並ぶブックカフェであり、LPレコードの音楽が流れ、夕方にはアルコールも提供されています。手づくりのスイーツや食事、テイクアウトのお弁当もあり、近隣に住む方や働く方にとって、癒やしと憩いの場となっています。犬連れでも利用でき、かわいらしい犬たちに出会えたり、小さな子どもたちが動物との触れ合いを身近に感じられたりする、温かな空間です。
本と白い壁に囲まれたその場所は、それだけでも十分魅力的ですが、私は以前から「ここにアートがあれば、さらに豊かな空間になるのではないか」と感じていました。そんな折、日本橋浜町の都市開発を担う安田不動産の方をご紹介いただき、HAMA HOUSEのオーナーへとつながり、白い壁面の空きスペースを活用した障害のある方のアート展が実現しました。
ロータリークラブの展示とはまた異なる、地域に根ざした、ハートウォーミングな展覧会となりました。
(HAMA HOUSE展示風景)
私はこの場所と「障害のある方のアート」というジャンルは、とても相性が良いと感じました。街のコミュニティに親しまれているカフェだからこそ届くものが、確かにあったのです。
来場者の多くは、普段あまりアートに親しみのない方々でした。
「ギャラリーは少し敷居が高い」
「アートはよく分からない」
「現代アートは難しそう」
そんな感覚を持つ方も少なくありません。
けれど、いつものようにカフェを訪れたとき、そこに素敵な作品が飾られていたらどうでしょうか。
「力強くて面白いですね」
「楽しい作品ですね」
「これは誰が描いたのですか?」
「障害のある方の作品なんですね」
「以前、区役所で見たことがあります」
こうした自然な反応が生まれます。
さらに、
「販売しているのですか?」
「購入できますか?」
「気に入ったので買いました」
「迷ったけれど、2点購入しました」
といった嬉しい声もありました。
私たちは作品を安価に販売しているわけではありません。アーティスト本人や所属施設と話し合いながら、一つの作品として、またアーティストの仕事として、適正な価格でご提供しています。額装も施しているため、決して気軽に買えるものではありません。
それでも購入してくださる方がいる。そのことに、大きな意味を感じました。
ホワイトキューブで見られる、アートコレクターや専門家、あるいはソーシャライトの方々の反応とは明らかに異なります。そこでは美術的価値や資産性、展覧会歴や受賞歴といった話題が前面に出ることは多くありません。その代わりに感じたのは、「自分も社会に何か貢献できた気がする」という、静かな手応えでした。
もちろん、どちらが良いという話ではありません。ただ、「こうした展覧会のあり方もある」と、私自身が強く実感したのです。
これまで作品を購入してくださる方の多くは、私たちの知人やその紹介といった、人間関係の延長線上にいる方々でした。しかしHAMA HOUSEでは、この場で初めて出会った方が、NPOやロータリーと直接関わりのない方が、「カフェで作品に出会い、気に入って購入する」ということが起こりました。
また、カフェのInstagramを見て「気になったので来ました」と足を運んでくださる方もいらっしゃいました。
そこには強い使命感や大きな社会貢献意識があるわけではないかもしれません。それでもこの体験を通じて、「少し社会の役に立てた気がする」と感じる――そんな、やわらかな関わり方が生まれていました。
私自身も、この展示をキュレーションする中で、やわらかな喜びを感じていました。この感覚の背景にあるのは、「街のコミュニティ」「地域のつながり」という存在だと思います。
コミュニティが生み出す力。
人を支える力。
優しさや温かさ。
それらが、豊かな社会や人間関係を支えていることを、あらためて実感する展示となりました。
学術的に言えば、「アートがコミュニティに与える影響」や「まちづくり」というテーマに位置づけられるかもしれません。しかし私にとっては、それ以上に、人の優しさや尊厳について考えさせられる体験でした。
HAMA HOUSEは、東京都中央区日本橋浜町にある、魅力的な街のカフェです。常設でアート展示が行われているわけではありませんが、お近くにお越しの際は、ぜひ立ち寄ってみてください。
人のあたたかさを感じられる空間で、知的好奇心を刺激されながら、ゆったりとした時間を過ごすことができます。
お腹も、頭も、そして心も満たされる場所です。
(Hama House外観)
https://www.instagram.com/cafe_hamahouse/?hl=ja
Category: 連載記事