Last Updated: 2026年3月27日 by hide
いつもARD(アート・オブ・ザ・ラフ・ダイヤモンズ)の活動を温かく応援してくださり、ありがとうございます。アートディレクターの若尾尚美です。
今月の「推しアーティスト」は、京都の福祉施設「アトリエやっほぅ!!」に通う日吉雅治さんです。
(写真:日吉雅治さん/アトリエやっほぅ!! 中島さん撮影)
先月ご紹介した“ひなさん”の「空間把握」のお話に続き、今月はその第2弾です。
日吉さんの描写は
まるで頭の中に完成図があるかのように、迷いなく紙の上を走ります。日吉さんは、中心から全体を組み立てていくのではなく、「いま描きたい場所」からいきなり描き始めます。下書きやトレースはほとんどなく、いわゆる“一発描き”で画面を進めていく。部分から始まった線が、気づけば全体の構図を作り上げている――そのプロセスには毎回驚かされます。
ただ、この驚きを施設スタッフの中島さんにお話ししたところ、「特殊能力」という言い方は、現場の感覚とは少し違うのだと教えてくださいました。
中島さんは、日吉さんの制作は確かに独特である一方で、日々の観察と毎日の制作の積み重ねの中で、自然と身についたものとして捉えるほうがしっくりくる、と言います。訓練や研鑽というより、本人にとっては“努力”という意識さえないのではないか、と。
このお話は、私にとって非常に示唆的でした。展覧会などの「スポット」で関わる立場の私は、どうしても“驚き”の側面を強く見がちです。一方で、日々アーティストのそばにいて見守り支える職員の視点には、生活の時間と制作の時間が地続きであることへの理解があり、その違いに気づかされました。
映画『レインマン』の印象もあり
私はどこかで「特別な能力」として理解しようとしていたのかもしれません。けれど中島さんのお話を聞いて、私たちからは“能力”に見えることが、本人にとっては「好き」や「日常」の延長として、自然に行われている——その可能性を思いました。
日吉さんの作品は、日常の風景のほか、図鑑やビジュアルの美しい雑誌、ファッション誌などから着想を得て、独自の視点と構図で“ある一部分”を切り取って描かれます。
中島さんによれば、日吉さんは職人気質で妥協がなく、服のひだやタイルの柄など細部を的確に描写する一方で、あえて描き込まない部分や抽象的な表現も残し、その対比が面白いのだそうです。
緻密でありながら、すべてを埋め尽くすわけではない。描く/描かないを選びながら画面を設計し、しかも下書きなしで進めていく——その大胆さと精度の同居が、日吉さんの大きな魅力だと感じます。
日吉さんはバスで施設に通う途中、気に入った風景に出会うと、手づくりのスケッチブックを取り出してその場でデッサンを始めてしまうそうです。スケッチブックがないときは、身近にある紙や、時には手の甲など、そこにあるものへフリーハンドで描き出してしまうこともあるのだとか。黒い線の思い切りの良さから、迷いのなさが伝わってきます。
最近は線画だけでなく、色を重ねる作品や、貼り絵など絵画以外の表現にも取り組んでいます。
貼り絵では、まず色紙を1mm〜2cmほどの大きさに手でちぎり、数日かけて素材を準備します。その大小の色紙を、画面の場所に合わせて貼り分け、構成していく。ここにも、気の遠くなるような“職人”の日吉さんの手仕事が息づいています。
そうしたこだわりと美意識が、見る人を驚かせ、楽しませてくれるのだと思います。突き詰めれば、「つくることが好き」という一点に、きっと帰結していくのでしょう。
(写真:日吉雅治さん/アトリエやっほぅ!! 中島さん撮影)
私たちARDは、企業とのコラボレーションなどを通じてさまざまな場所で作品を展示し、この世界観を紹介する活動を続けています。多くの人の目に触れる機会が増えることで、理解が広がり、偏見が和らぐこと。
作品の販売が制作費の還元につながり、アーティストや施設の支えの一部になること。そして何より、創作が社会とつながる経験が、本人の自信や誇りへとつながっていくこと——私たちはそのお手伝いを、微力ながら重ねていきたいと考えています。
日吉さんは、世界的に有名なチョコレートブランドGODIVAさんとコラボレーションし、関東地区のGODIVA Caféに作品を展示しました。GODIVAさんの「アートを見て、毎日をちょっと良く」というカフェコンセプトに合わせ、空間に合うスタイリッシュで洗練された作品が並び、店内を素敵に彩りました。

(GODIVA Caféコラボ企画 配布ステッカー)
これからも、こうした企業との協働を増やし、より多くの方に作品と出会っていただける機会をつくっていきたいと思います。
Last Updated: 2026年3月27日 by hide
『好き』の延長にある、迷いなき一筆 ー ARD推しアーティスト 日吉雅治さん
いつもARD(アート・オブ・ザ・ラフ・ダイヤモンズ)の活動を温かく応援してくださり、ありがとうございます。アートディレクターの若尾尚美です。
今月の「推しアーティスト」は、京都の福祉施設「アトリエやっほぅ!!」に通う日吉雅治さんです。
先月ご紹介した“ひなさん”の「空間把握」のお話に続き、今月はその第2弾です。
日吉さんの描写は
まるで頭の中に完成図があるかのように、迷いなく紙の上を走ります。日吉さんは、中心から全体を組み立てていくのではなく、「いま描きたい場所」からいきなり描き始めます。下書きやトレースはほとんどなく、いわゆる“一発描き”で画面を進めていく。部分から始まった線が、気づけば全体の構図を作り上げている――そのプロセスには毎回驚かされます。
ただ、この驚きを施設スタッフの中島さんにお話ししたところ、「特殊能力」という言い方は、現場の感覚とは少し違うのだと教えてくださいました。
中島さんは、日吉さんの制作は確かに独特である一方で、日々の観察と毎日の制作の積み重ねの中で、自然と身についたものとして捉えるほうがしっくりくる、と言います。訓練や研鑽というより、本人にとっては“努力”という意識さえないのではないか、と。
このお話は、私にとって非常に示唆的でした。展覧会などの「スポット」で関わる立場の私は、どうしても“驚き”の側面を強く見がちです。一方で、日々アーティストのそばにいて見守り支える職員の視点には、生活の時間と制作の時間が地続きであることへの理解があり、その違いに気づかされました。
(日吉雅治:宇宙ステーション)
映画『レインマン』の印象もあり
私はどこかで「特別な能力」として理解しようとしていたのかもしれません。けれど中島さんのお話を聞いて、私たちからは“能力”に見えることが、本人にとっては「好き」や「日常」の延長として、自然に行われている——その可能性を思いました。
日吉さんの作品は、日常の風景のほか、図鑑やビジュアルの美しい雑誌、ファッション誌などから着想を得て、独自の視点と構図で“ある一部分”を切り取って描かれます。
中島さんによれば、日吉さんは職人気質で妥協がなく、服のひだやタイルの柄など細部を的確に描写する一方で、あえて描き込まない部分や抽象的な表現も残し、その対比が面白いのだそうです。
緻密でありながら、すべてを埋め尽くすわけではない。描く/描かないを選びながら画面を設計し、しかも下書きなしで進めていく——その大胆さと精度の同居が、日吉さんの大きな魅力だと感じます。
日吉さんはバスで施設に通う途中、気に入った風景に出会うと、手づくりのスケッチブックを取り出してその場でデッサンを始めてしまうそうです。スケッチブックがないときは、身近にある紙や、時には手の甲など、そこにあるものへフリーハンドで描き出してしまうこともあるのだとか。黒い線の思い切りの良さから、迷いのなさが伝わってきます。
最近は線画だけでなく、色を重ねる作品や、貼り絵など絵画以外の表現にも取り組んでいます。
貼り絵では、まず色紙を1mm〜2cmほどの大きさに手でちぎり、数日かけて素材を準備します。その大小の色紙を、画面の場所に合わせて貼り分け、構成していく。ここにも、気の遠くなるような“職人”の日吉さんの手仕事が息づいています。
そうしたこだわりと美意識が、見る人を驚かせ、楽しませてくれるのだと思います。突き詰めれば、「つくることが好き」という一点に、きっと帰結していくのでしょう。
(写真:日吉雅治さん/アトリエやっほぅ!! 中島さん撮影)
私たちARDは、企業とのコラボレーションなどを通じてさまざまな場所で作品を展示し、この世界観を紹介する活動を続けています。多くの人の目に触れる機会が増えることで、理解が広がり、偏見が和らぐこと。
作品の販売が制作費の還元につながり、アーティストや施設の支えの一部になること。そして何より、創作が社会とつながる経験が、本人の自信や誇りへとつながっていくこと——私たちはそのお手伝いを、微力ながら重ねていきたいと考えています。
日吉さんは、世界的に有名なチョコレートブランドGODIVAさんとコラボレーションし、関東地区のGODIVA Caféに作品を展示しました。GODIVAさんの「アートを見て、毎日をちょっと良く」というカフェコンセプトに合わせ、空間に合うスタイリッシュで洗練された作品が並び、店内を素敵に彩りました。
(GODIVA Caféコラボ企画 配布ステッカー)
これからも、こうした企業との協働を増やし、より多くの方に作品と出会っていただける機会をつくっていきたいと思います。
Category: アーティスト・作品の紹介